Tutian日記

社員20名のベンチャーに新卒入社し、27歳で管理職になるも、29歳で創業130年老舗メーカーに一兵卒として転職してみて気づいたことを書きます。 ①人材業界②人事③就活④大企業vs中小企業といったネタで書こうと思います。ゆるいプライベートの話題も書きます。

経営者は野村監督に、中間管理職は江夏になれ ~ダイバーシティ推進や働き方改革をプロ野球に例えてみた~

どうしたらモーレツ世代がダイバーシティ推進や働き方改革に納得するか

最近、ダイバーシティ推進や働き方改革が「企業の稼ぐ力が持続する」ことにつながるというロジックを、どうしたらわかりやすく説明できるのか考えることが多い。

特に、50代~60代のモーレツに働いてきた方々に、理解してもらうのは非常に困難を極める。「全員一律、働く時間が少なくなり、企業の競争力が低下するのでは」とか「多様性を認めることによって余計なコストが発生するのでは」あるいは「ハードワーキング、手間暇かけて丁寧に、という日本企業の強みが失われるのでは」という「誤解」がバリアとなって、なかなか腹落ちするまで時間がかかる。

しかし、私の今務めている会社では、企業の経営をしたり、部下のマネジメントをしている人たちは、50~60代のモーレツ社員、ワーク・ワーク社員なので、まずはこの人たちに腹落ちしてもらわないと始まらない。

そこで、あーでもない、こーでもないといろいろ考える日々なのだが、ちょっと変化球な話を思いついたので書き記しておこう。

------------

ダイバーシティ推進や働き方改革をプロ野球に例えてみる

○今も昔も「社員の意欲・能力を発揮(有効活用)させ、利益を上げなければならない」と言うことは共通である。

○ただ、利益を上げるために必要な戦い方が変わったのだ。時代が変わり、環境が変われば「社員の意欲・能力を発揮させる」メカニズム(社員の活用法)は変わる。

○高収益を挙げられる状態を持続的なものとするために、戦い方を時代にフィットさせていくことが、ダイバーシティ推進であり、働き方改革である。

------------

これを、プロ野球に例えるとこうなる。

○今も昔も「選手を有効活用し、相手より多く点を取り、27個アウトを取れば1勝できる。年間を通して最も勝利数が多いチームが優勝できる」と言うことは共通である。

○ただ「ペナントレースを制するチームを長期的に築くための戦い方」が変わったのだ。時代が変わり、環境が変われば選手の活用方法は変わる。

○より確実に試合に勝てる状態をシーズン通して持続するため、戦い方を時代にフィットさせていくことが、ダイバーシティ推進であり、働き方改革である。

------------

例えば、投手の起用法。

昔は先発完投型の投手がよいとされた。「ガソリンタンク」の米田や「権藤、権藤、雨、権藤」の権藤のようなエースが毎日のように連投・完投するのが当たり前。

しかし、今では先発投手は、6回・7回で降板するのが当たり前。先発投手が毎試合完投・連投するなんて、選手生命を縮めるのでもっての外、むしろタブーとされている。

「先発エース」を今と昔で比較しても、年間の登板試合数は昔(=43試合・米田、'68)と今(=26試合・菅野、'16)で大きく違うし、年間投球回数も昔(=348回・米田、'68)と今(=183.1/3回・菅野、'16)では、二倍近くの隔たりがある。

では、米田と菅野を比較して「選手としての価値」や「チームへの貢献度」は米田のほうが二倍近く高いのだろうか?

そうではない。「勝つための、優勝するための投手起用方法が変わった」のだ。

組織に置き換えてみると「労働時間が長さが、人材の価値や組織への貢献度と単純に比例するのか?」ということだ。

------------

野村監督と江夏の「革命」

続いて、ダイバーシティ推進や働き方改革の重要性を感じさせる、野球界のまさに「革命」エピソードをご紹介しよう。

当時、投手=先発完投が当たり前の時代、リリーフ(中継ぎ・抑え)を勝つために戦略的に行う、などと言う概念はなく「先発完投できないとエースとして失格」「リリーフ投手=控えであり、能力の劣る投手」とされていた。

阪神で先発完投型のエースとして活躍した江夏は、キャリア後期、血行障害や心臓疾患などで長いイニングを投げられなくなった。当時の野村監督(南海)は、江夏にリリーフ転向を打診した。しかし、江夏は拒否。延長10回に自分でホームランを打ってノーヒットノーラン達成したこともある江夏は、先発完投型の投手であることに非常にこだわりを持っていた。リリーフ転向など恥ずかしくてできない。頑なな江夏を、野村監督はこう口説き落としたという。

「安定したリリーフ無くして、先発の強みは発揮できない。単なる控えではなく、公正な評価を得るポジションとして、リリーフ投手が認識される時代が必ず来る。」

「二人で野球界に革命を起こそうやないか」

------------

この後、江夏は抑え投手として活躍。日本シリーズでの「江夏の21球」という名場面で「抑え投手」が主役になれることを自ら証明し「優勝請負人」の名をほしいままにする。江夏がリリーフ転向した当時には「セーブ」や「ホールド」などと言う言葉すらなかった。ルールが後になって、江夏に追いついたのだ。

------------

経営者は野村監督に、中間管理職は江夏になれ

これですよ。これ。これこそまさにダイバーシティインクルージョンであり、働き方改革です。

この時、野村監督が「貴様のような完投できない投手などいらん」と戦力外通告していたら…江夏が「完投できない自分は、チームに不要な、迷惑をかける存在なんだ…」と引退していたら…

時代の変化や、選手の状態を的確に捉まえ、戦い方を変えた。だから、野村監督はその後もヤクルトで日本一の監督となり、複数の球団で監督を務め「野村再生工場」と言われた。江夏も不動のストッパーとして、新しい境地を開き、結果的に長期的に活躍することができた。

野村監督がそのまま「経営者」で、江夏が「中間管理職(若い時バリバリ働いた元エースプレイヤー)」です。経営者が「残業・転勤など、これまでの会社にとって都合の良い人材像に当てはまらん人間(労働時間に制限のある人間)はいらん」という企業は、人口が減る環境で、今後人材を持続的に確保できるのだろうか?

長時間労働できない自分は、会社に貢献できない存在なのだ」と思うのではなく「私は私のワークスタイルで、会社に貢献すればいいじゃないか」と思える組織のほうが、社員のやる気を引き出し、ひいては成果も大きくなるのではないだろうか。

このように「勝ち続けるために」環境の変化に合わせ選手(社員)の活用方法を変えること「多様なワークスタイル(貢献の仕方)」を認めることがダイバーシティ推進や働き方改革なのだ。

経営者は野村監督を、中間管理職は江夏を見習わなければいけない。

------------

ダイバーシティ推進や働き方改革が自己目的化してはいけない

こう考えると、結構しっくりくる。野球を知らない人には何のことかさっぱりかもしれないが…

ところで、ダイバーシティ推進や働き方改革は「わかりにくいので腹落ちしにくい」ゆえに「手段が目的化しやすい」という難しさがある。

ダイバーシティ推進」の話をするとき、気を付けないと、やれ外国人社員比率・女性社員比率がどうだとか、やれ役員や管理職に外国人・女性が含まれているか、といった話になってしまう。

「働き方改革」では、やれ年次有給休暇取得率や年間総実労働時間がどうだとかの各論の話になってしまうのも、そう。

これも、野球で考えると分かりやすい。

菅野が毎試合完投しないのも、連投しないも、単に長い回を投げないことが目的ではない。さらに言うと、菅野が昔のピッチャーに比べて怠惰になったわけでも、精神的に弱くなったわけでもない。

野村が長いイニング投げられない江夏を抑え投手にしたのも、別に野村が江夏を甘やかしたいわけではないし、江夏を過剰に保護しているわけでもない。

ただ「長期的にチームが勝つために」やっているだけのことなのである。

------------

ダイバーシティ推進や働き方改革が自己目的化してはいけない

性別・国籍関係なく活躍できる組織にするのも、長時間労働ができない(志向しない)人にも多様な貢献の仕方を認めるのも、全部「企業の稼ぐ力を持続させる」ためにやるのである。

野球チームで考えてみても「プロ野球チームの女性選手・外国人比率を上げ」「コーチ・監督に女性・外国人を登用し」たら、強いチームになるかというとそんなことはないはずだ。

「試合時間が短くなるように、なるべく球数が少なくなるように投球」したり「練習日数を減らして選手を休ませる日を増やし」たら、強いチームになるかというと、これも違う。

あなたが監督で、もしコーチが「今、女性をチームに入れたり、外国人をコーチにしたりするのが流行ってます」「他球団は、試合時間を短縮し、試合日数を減らし、選手の休息時間・休暇を増やしています」「ウチもやりましょう」と言ってきたら、どう思うだろうか。

「こいつ何言ってんの?」「そんなことしたらチームがひどいことになっちゃうじゃん」と思わないだろうか。

人事部と経営が「わが社にとって、何のためにダイバーシティ推進や働き方改革は何のためにやるのか」を話し合わないといけない。

野球で例えるならば「プロ野球界初の女性選手誕生」が目的化したり「1イニングあたり球数が20球超えた投手は罰金」「投手を年間140イニングス登板させたチームは罰則」という、手段が目的化した、わけのわからないことになってしまう。そんなチームが優勝することはないだろう。これを会社で例えた場合は…言うまでもないだろう。